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2006年 02月 06日
「二人の子供たちへ。」
「二人の子供たちへ。」

心の優しい、思いやりのある子に育ちますように・ ・ ・ ・ 。

悲しいことに、私はお前たちが大きくなるまで待っていられない。

私の右膝に発症した肉腫は、

私が自分の片足を切断する手術を希望し、

その手術が無事に済んだにも関わらず、

今度は肺に転移した。

肺の中で、増殖し始めたその肉腫は、

懸命な治療に対して、

それを笑うかのように広がり続け、

胸を圧迫し、呼吸を苦しめる。

もう、あとどれだけも、

私は、お前たちの傍にいてやれない。

こんな小さなお前たちを残していかなければならないのか、と思うと

胸が砕けそうだ。

いいかい。

心の優しい、思いやりのある子に育ちなさい。

そして、お母さんを大切にしてあげなさい。

お前たちを育てる為に、お母さんはどんな苦労も厭わなかった。

そして私にも、心を尽くして親切にしてくれた。

父親がいなくても、

胸を張って生きなさい。

お前たちの、お祖母ちゃんは、

肝臓を悪くし、片方の肝臓を摘出し、

やがて聴覚も失い、

音のない世界で病気と闘いながら、

最後まで感謝の気持ちを持ち続け、

遂に、死ぬまで負けなかった。

だから私も、右足切断の手術を受けたけれど、負けなかった。

これからは、熱が出、咳き込み、もっともっと苦しい思いをすると思うが、

私は最後まで、負けない。

お前たちの誇りとなれるよう、決して負けない。

だからお前たちも、これからどんな困難に遭うかもしれないが

負けないで耐え抜きなさい。


サン=テグジュペリが書いている。

大切なものは、いつだって目には見えない。

人はとかく、目に見えるものだけで判断しようとするけれど、

目に見えているものは、

いずれは消えてなくなる。

いつまでも残るものは、目には見えないものだよ。

人間は、死ねばそれで全てが無に帰する訳ではない。

目には見えないが、

私はいつまでも生きている。

お前たちと一緒に生きている。

だから、私に遭いたくなる日がきたら、

手を合わせなさい。

そして心で、私を見つめてごらん。


今、私は熱がある。

咳き込んで苦しい。

けれども、この腕が動く間に書いておきたいことがある。

これは私が父親として、お前たちに与えうる唯一の贈り物だ。


お母さんを守ってあげなさい。

二人の力で守ってあげれば、どんな苦労だって乗り越えられるよ。

そしてもし、

私が死んだ後、

お母さんが寂しがっていたら、

慰めてあげなさい。

やがて、もしもお母さんの寂しさを忘れさせてくれる人が現れたら、

再婚させてあげなさい。

人間はいつまでも独りでいるものではない。

独りぼっちでいる事ほど、悲しい事はない。

私の父・母、

お前たちの、お祖父ちゃん・お祖母ちゃんもまた、

再婚して結ばれた人達だ。

私の父や母も、その夫や妻に先立たれ、

一人きりの毎日だった。

独りぼっちになっていた者同士が、ひとつになって

家の中に灯りがともった。

あんなに苦しげだった父に明るさが蘇り、

不安気に私達の家にやってきた母も、

幸福に充たされていった。

こんなに良いことはない。


思いやりのある子とは、

周りの人が悲しんでいれば、共に悲しみ。

喜んでいる人がいれば、その人のために一緒に喜べる人のことだ。

思いやりのある子は、周りの人を幸せにする。

周りの人を幸せにする子は、

周りの人によって、もっともっと幸せにされる、世界で一番幸せな人だ。

だから、

心の優しい、思いやりのある子に育って欲しい ・ ・ ・ ・ 。

それが、私の祈りだ。


さようなら。


私はもう、いくらもお前たちの傍にいてやれない。

お前たちが倒れても、

手を貸してやることもできない。

だから、倒れても倒れても、自分の力で起き上がりなさい。

さようなら。

お前たちが、いつまでもいつまでも

幸せでありますように。


雪の降る夜に  父より。





「遺る★は、父から捧げられた言葉を、心臓の奥に刻み付けました。」

「心臓が、止まろうが、心肺蘇生されようが、
 
 刻まれ続ける、その愛の言葉が、」


「きっと私を、無事に導いていって下さいますでしょう。」


だから、今すべき事。それは、    


 『思い遣り ・ ・ ・  ・  愛するあなたに。』





2006・2・1
by ill621 | 2006-02-06 12:55


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